歴代高柳賞-歴代高柳記念賞

H30年度(2018)高柳記念賞受賞

星 詳子(ほし ようこ)

【 浜松医科大学光尖端医学教育センター教授 】

近赤外線を用いたヒト生体機能イメージング技術の開発と応用

近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)は、近赤外領域の光を用いる分光分析法であるが、近赤外線は血液中のヘモグロビン(Hb)など限られた物質にのみ吸収され、生体に対して比較的高い透過性を有する。申請者はこの性質を利用して、ヒトを対象とする近赤外生体機能イメージング技術の開発と応用に取り組んできた。

組織酸素モニターから神経機能イメージングヘの展開当初、NIRSは組織酸素モニターとして開発がすすめられ、脳循環・代謝に関する研究に携わったが、脳賦活に伴う局所脳血流増加をNIRSで検出できることを見出し、新しい神経機能イメージング法として世界に先駆けて発表した。以後、機能的近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)と呼ばれるようになり、国内外で広く脳研究に用いられている。NIRSはベッドサイドなどで手軽に脳活動の変化をリアルタイムで観察することができ、また、他のイメージング法では計測が難しい小児や高齢者などに検査の道を拓くなど、脳科学にとどまらず医療にも貢献している。

拡散光トモグラフイーの開発

1990年から7年間、NEDOの「光断層イメージングシステム開発委員会」の委員として、拡散光トモグラフイー(DOT)の開発に携わった。DOTは、生体機能情報をもつ吸収・散乱係数や、吸収係数から算出されるHb濃度などの分布を断層画像化する、生体のような不均一媒体を対象とする光計測の中で最も高度な技術である。検出光のほとんどが散乱光であるためDOTの画像再構成は非常に難しく、NEDOのプロジェクト終了後、海外でも目立った技術進歩は見られなかったが、DOTを実用化するために、2012年にAMEDの研究プログラム「ヒト生体イメージングを目指した革新的バイオフォトニクス技術の構築」に応募し採択された。このプロジェクトでは、輻射輸送方程式に基づく生体内光伝播モデルを構築し、高精度・高速画像再構成アルゴリズムを開発して、シミュレーション実験で甲状腺がんの画像再構成に成功した。現在、ヒト計測データに基づく画像再構成を進めている。

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