歴代高柳賞-歴代高柳記念賞

H2年度(1990)高柳記念賞受賞

萩野 實(はぎの みのる)

【 静岡大学電子工学研究所教授 】

分子線エピタキー法の光電面用薄膜作成への応用と
成長機構に関する研究

イメージ管、光電子増倍管などに用いるために負の電子親和力(NEA)光電面に関する研究を行ってきた。NEA光電面材料としてはm-V族化合物半導体が用いられ、極めて良質の単結晶薄膜であることが要求される。これには分子線エピタキシー法(MBE)による成長が適していると判断した。MBEは、成長中のその場観測が可能、組成及び膜厚の制御性の良さなどの特長を有しており超格子構造デバイスなどの開発のためにも重要な技術である。MBEで成長膜厚を一様にするための分子線源の改良、GaP基板上へのp+GaAsの成長法などの研究を行い、透過型及び反射型NEA-GaAs光電面を作成しMBEの適応性を実証した。さらに、それら光電面の高率化と分光特性の広域化(特に赤外域へ拡張)のために、格子不整合による歪みの緩和現象、GaAsP混晶の成長(グレーデッドギャップの実現)そしてlnGaAs混晶の成長(赤外用)に関する研究を行った。

これらの研究結果を踏まえて、より高性能のNEA光電面用の結晶成長技術を確立するための基礎研究としてMBE法における成長機構の解明を試みた。このためにMBEの成長過程を分析して、気相と成長層の間に前駆状態を介した定常状態があるとした成長過程のモデルを提案した。これに速度方程式を適用して、実験結果と比較して式中の諸定数を決定した。実験には、GaAsと格子整合性が良い上に禁止帯幅が大きくGaAs光電面の基板兼窓材ともなることを考慮してZnSeを取り上げ、解析を試みた。その結果より成長速度や表面組成比を支配する諸因子を明らかにし、組成制御のための成長条件を提示した。更に、この成長モデルをGaAsP混晶の組成制御の実験結果に適用し従来制御の難しかったV族元素のAs/P比と成長条件の関係を明らかにし組成比の制御を容易に行えることを示した。

以上、MBEにおける成長機構の解明により、II-VI族及びIII-V族化合物半導体のMBE法による結晶成長に際し、光電面用のみならず、目的に応じた種々の成長条件の設定に関して多くの有用な知見を得ることができた。

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