歴代高柳賞-歴代高柳研究奨励賞

R4年度(2022)高柳研究奨励賞受賞

川口 昂彦(かわぐち たかひこ)

【 静岡大学学術院工学領域助教 】

磁場印加PLD法の窒化物および酸窒化物への適用による
高結晶性薄膜の作製

近年の電子材料において薄膜は必要不可欠な存在であり、その作製法の開発は最重要課題と言える。応募者は、成膜中に磁場印加可能なパルスレーザー堆積法である「磁場印加 PLD」法の開発を進めてきた。本手法では固体原料(ターゲット)に高エネルギーレーザーを集光照射することで生じたプラズマ化した原料(プルーム)に印加磁場が作用し、プルーム中の電子とイオンの再結合が抑制される。その結果、プラズマ状の原料がそのまま薄膜に供給される。ここで、ターゲットを窒化物や酸窒化物とした場合、反応性の高いプラズマ状の窒素を薄膜作製に利用できることが期待される。この効果の是非を確かめるために、本研究ではモデルケースとして、近年注目されている逆ペロブスカイト型窒化物 Mn3CuN や、ペロブスカイト型酸窒化物 ATaO2N(A = Sr, Ca)について、磁場印加PLD法による薄膜作製に取り組んだ。結果として窒化物でも酸窒化物でも、磁場印加時のみに窒化することが明らかとなった。すなわち、期待された通り、磁場印加PLD法ではターゲットから直接、反応性の高い窒素プラズマが供給できることが示唆された。本研究成果は高く評価され、日本セラミックス協会からは進歩賞を授与されている(2022年6月)。

今後の研究計画として、超高真空装置に磁場印加PLD法を導入する予定である。これまでの研究では、真空装置中の残留酸素による酸化物の同時形成という問題が生じていた。そこで、超高真空装置に磁場印加機構を導入することで、酸化物の同時形成を抑制し、単相薄膜の作製を目指す。さらに、背景真空度の低下により薄膜表面の原子拡散も促進されるため薄膜の更なる高品質化が見込める。また、ごく最近、応募者は Mn3(Ge,Mn)N においてスピントロニクス応用に重要な交換バイアスを示す単一物質を新しく見出している。そこで超高真空磁場印加PLD法を用いることで、本物質の高品質薄膜を作製し、デバイス特性を調査していく予定である。

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