歴代高柳賞-歴代高柳研究奨励賞

R2年度(2020)高柳研究奨励賞受賞

脇川 祐介(わきかわ ゆうすけ)

【 静岡理工科大学先端機器分析センター講師 】

分光・電気伝導測定法と磁気共鳴法の融合による
有機デバイスの電荷キャリア・励起子反応の解明

グリーン・イノベーションが求められる近年、光エネルギーと電力を変換する有機分子は元素戦略に合致した 低環境負荷型材料として注目されている。有機材料を用いた次世代エレクトロニクスデバイスの高性能化にとって、 分子レベルでの電荷キャリアや励起子反応過程の解明と制御は中心的命題である。申請者は、電子スピンを プローブにした独創的な電気伝導・分光測定や磁気共鳴法を用いて、デバイス性能を左右する電荷キャリアあるいは 励起子の生成・消失過程を実験的・計算科学的に明らかにしてきた。

これまでの研究では、光伝導性高分子、フラーレン誘導体、熱活性型遅延蛍光材料、三重項-三重項融合および 一重項開裂反応を示す蛍光材料、超分子集合体など液体から固体まで多岐に渡る有機材料、有機ダイオードや有機 薄膜太陽電池などのデバイスを評価対象とし、個別に進化する材料・デバイス開発の細分化や断片化を包括する 研究を行ってきた。近年では、インピーダンス分光法と磁気共鳴法を組み合わせた新しい計測技術を開発し、駆動条件下 (オペランド)の有機デバイスにおいて、電荷キャリアが消失する反応の解明と消失速度の評価に成功した。 また、電極界面に蓄積した電荷がデバイス性能低下の主要原因であることを明らかにし、高性能デバイス開発におけるオペランド計測の 重要性を示した。

今後、有機デバイスにおける電荷キャリアや励起子の生成・消失反応の制御を目指し、その支配因子である 分子固有の磁気的相互作用とスピンダイナミクスの解明を目的とした発展的研究を行う。具体的には、 種々の磁気的相互作用を直接検出するゼロ磁場磁気共鳴法と分光・電気伝導測定法を融合した新規オペランド計測法 を開発する予定である。デバイス性能を支配する反応の制御因子の解明は、デバイスの高効率化にとって必要な 情報であり、有機エレクトロニクスの開発分野に対する波及効果は大きいと期待される。

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