歴代高柳賞-歴代高柳研究奨励賞

R1年度(2019)高柳研究奨励賞受賞

増澤 智昭(ますざわ ともあき)

【 静岡大学学術院情報学領域講師 】

アモルファスセレン半導体薄膜のキャリア増倍原理分析と
光検出器への応用

本研究では,アモルファス半導体の一種であるアモルファスセレン(a-Se)の信号増倍効果に注目し、その動作原理を解明することで、新たな高効率光電子デバイスの開発を目指した。a-Seには、高電圧をかけることで電気信号を増倍する特異な性質(信号増倍効果)がある。この性質を利用して作られたHARP撮像管は、現在の最先端のCCDと比較しても良好な感度と信号ノイズ比を示したが、動作の核心であった信号増倍効果は発生条件や動作原理が未解明であった。

筆者らはa-Seの結晶構造と電気的特性を分析し、信号増倍効果の発現には積層構造のa-Seが必要なことを明らかにした。さらに、a-Seに少量のヒ素を添加することで信号増倍効果が安定化するという知見をもとに構造解析を行い、熱的な構造相転移が信号増倍効果を妨げていたことを明らかにした。ヒ素の添加によって相転移温度が上昇し、信号増倍が妨害されることなく発現した(業績No.17)。

これらの知見から、セレンとセレン化ヒ素の多層構造を持つ光電変換材料を作成し、ダイヤモンド電子源と組み合わせることで光検出器を試作した。この光検出器を用いて、a-Seの信号増倍効果によって量子効率が10倍~1,000倍に向上することを確認した。特に紫外光に対しては増倍効果が大きく、当時最高効率のUVセンサと比べても1,000倍近い量子効率での光検出を実現した(業績No.16)。

今後の研究の展開

筆者らの最近の研究で、a-SeAs2Se3の多層構造によって超格子が形成され、超格子内の閉じ込め準位を介してキャリアが増倍され、信号増倍効果が現れることが明らかとなった(業績No.1)。結晶構造に乱雑さを持つアモルファス半導体で超格子が現れることは極めて珍しく、新たな物性や現象が期待される。今後は構造を制御したa-Se薄膜の量子構造を調べることで、アモルファス半導体による新たな量子デバイスの開発を目指す。

図1.信号増倍効時のa-Se薄膜の電流電圧特性(業績No.17より作成)/図2.二極管型光検出器の構造概念図(業績No.17より作成)

『歴代高柳研究奨励賞』贈呈一覧はこちら