歴代高柳賞-歴代高柳研究奨励賞

R1年度(2019)高柳研究奨励賞受賞

大田 良亮(おおた りょうすけ)

【 浜松ホトニクス(株)中央研究所研究員 】

画像再構成不要PETに向けた高時間分解能検出器の研究開発

私は大学院時代に大強度加速器施設であるJ-PARCにてストレンジネスクォークの観点からハドロン物理学の研究を行っていた。加速器実験では、粒子と粒子の衝突が頻繁に起き、その後π中間子、κ中間子、陽子など様々な種類の粒子が生成される。実験を効率よく遂行させるためにはこれらの粒子を一つずつ識別する必要がある。私はその中でもチェレンコフ放射を利用してπ中間子とκ中間子を識別する「チェレンコフ検出器」の開発、評価を担当した。開発したチェレンコフ検出器は実験で要求される性能を満たし、ストレンジネスクォークの性質に迫ることができた。

浜松ホトニクスに入社後は、大学院時代に得られた知見を元にチェレンコフ検出器を次世代のPositron Emission Tomography(PET)用の検出器へと昇華させることに注力している。次世代のPET用の検出器に求められる性能は①時間分解能が良い(同時計数時間分解能で35ps)こと、②γ線に対する検出効率がよいこと、の2つが挙げられる。チェレンコフ放射はシンチレーション放射と比べて発光過程が非常に速いことが知られており、それにより①の高時間分解能化は達成し得る。一方で発光量が少ないことから②のγ線に対する検出効率が低くなることが危倶されている。少ないチェレンコフ光を効率よく検出する手段の一つとして、チェレンコフ輻射体と光検出器を一体化させることが挙げられる。私はチェレンコフ輻射体と光検出器を一体化させた新しい検出器を浜松ホトニクス電子管事業部と共に開発した。一体化により検出効率が5倍程度改善した。更に一体化により時間分解能が向上することも確認され、30psの同時計数時間分解能を得た。

今後は現状得られている検出効率がPETの要求を満たすものであるかを検証しつつ、検出器の二次元化を目指す。検出器の二次元化は技術的に困難な点はなく、2019年現在、浜松ホトニクス電子管事業部と共に開発を進めている。二次元化達成後はシステム化、そしてイメージングヘと研究を進めていく予定である。

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