歴代高柳賞-歴代高柳研究奨励賞

H26年度(2014)高柳研究奨励賞受賞

大野 智也(おおの ともや)

【 北見工業大学マテリアルエ学科准教授 】

液相法を用いたSi基板上の圧電体薄膜の結晶歪制御技術の開発

圧電体薄膜の電気特性は、単結晶のそれと異なり、基板からの拘束力に起因する薄膜の残留応力(結晶歪)に大きく依存する事が知られている。これまで単結晶基板のような熱膨張係数が大きな基板上に薄膜を作製した場合、特性向上が期待出来る圧縮方向の結晶歪の印加に成功したという報告はされていたが、熱膨張係数が小さな商業的に応用可能なSi基板上での結晶歪制御技術についての報告はなかった。

推薦者は、液相法により人為的に細孔を有するバッファ一層をSi基板上に設計する事で、微構造に起因する応力緩和メカニズムを利用して、本来であれば特性低下が考えられる引っ張り応力が印加されるSi基板上の圧電体薄膜に対して、特性向上が期待出来る圧縮応力の印加に成功した。またバッファ一層として使用する材料開発についても農討し、Si基板上の圧電体薄膜に対して約1.0GPaの残留応力を人工的に制御して印加する技術の開発に成功した。さらにこの応力制御技術により、目的としていた圧電特性を始めとする各電気特性の向上についても確認している。

結晶歪は結晶相転移点に対しても影響を与える事が知られており、結晶歪によりキュリー点が上昇する現象は、多くの研究者によって報告されている。この現象は温度に対してのみではなく、その他の因子による結晶相転移に対しても影響を及ぼすと考えられ、今後の研究計画としてチタン酸ジルコン酸鉛やマグネシウム酸ニオブ酸鉛とチタン酸鉛の固溶体のような、結晶相境界を有する材料の結晶相境界組成に対する結晶歪の影響について、これまで開発した技術を利用して解明を行おうと考えている。これは、これらの材料では結晶相境界においてもっとも高い電気特性が得られる事から、結晶歪による結晶相境界組成への影響を調査する事で、より高性能な圧電体薄膜の開発及び、非鉛型圧電体材料の開発に対する基礎研究となるためである。

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