歴代高柳賞-歴代高柳研究奨励賞

R5年度(2023)高柳研究奨励賞受賞

越水 正典(こしみず まさのり)

【 静岡大学 電子工学研究所 教授 】

ポリマーと無機ナノ粒子のハイブリッド化による高速応答シンチレータ開発

候補者はこれまでに、蛍光型の放射線計測素子であるシンチレータの開発において、特に、次世代の医療診断装置や素粒子実験で必要とされる高速応答性を有する材料の開発で顕著な成果を挙げてきた。具体的には、有機ポリマーをベースとした、高速応答性を有するプラスチックシンチレータに、重金属酸化物などの無機ナノ粒子を添加することにより、X線やガンマ線に対する高い感度と高速応答性とを兼備する有機無機ハイブリッドシンチレータを実現した。プラスチックシンチレータに有機金属錯体として重元素を添加する従来法と比較すると、シンチレーション収率で2倍程度、X線検出効率で3倍程度の性能向上にそれぞれ成功した。なお、候補者の成果に基づいたアプローチで合成された有機無機ハイブリッドシンチレータは、東洋インキにより実用化され、2022年度より販売されている。

また、2022年度より、同様のアプローチにより、熱中性子計測用シンチレータを開発した。熱中性子計測においては、中性子と核反応を生じて高エネルギー粒子を発生させる6Liや10Bを多量に含有することが必須である。候補者は数種類のリチウム含有酸化物ナノ粒子を合成し、プラスチックシンチレータに添加した結果、LiGaO2ナノ粒子添加のものにおいて、中性子検出用での従来のアプローチの場合の3 倍以上のシンチレーション収率をすでに達成した。組成の最適化などにより、近日中にさらなる向上も可能であると見込まれる。

今後は、シンチレーション収率をさらに3~4倍向上させ、無機単結晶シンチレータに匹敵する値を目指す。そのために、発光寿命の短いペロブスカイト量子ドットを添加する。ほとんどのナノ粒子の発光が長寿命であるため、これまでに候補者は非発光性のナノ粒子を用いてきた。近年開発されたペロブスカイト量子ドットは、プラスチックシンチレータに匹敵するほどの短い蛍光寿命を有する。そのため、これを添加することで、X線への感度を向上させながら、シンチレーション収率の飛躍的向上を目指す。

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